商業施設や飲食店のテラス空間設計において、秋冬は「寒さ対策」という物理的な課題に直面する季節です。しかし、光と色彩の視点から見れば、秋冬は低い太陽高度がもたらす独特の採光と、色彩が体感に与える効果を活かして、空間の価値を高められる季節でもあります。
本記事では、設計者や空間デザイナーに向けて、秋冬のテラス空間におけるオーニング・パラソルの「採光設計」と「色彩戦略」を、設計実務の観点から解説します。秋冬デザインを検討する際の判断材料としてご活用ください。
結論:秋冬の空間デザインを成功に導く3つの戦略
秋冬のテラス空間において、快適性とデザイン性を両立させるための設計戦略は、以下の3点に集約されます。
季節による太陽高度の変化は、設計の基本条件です。東京では夏至の南中高度が約78度であるのに対し、冬至には約31度まで下がり、その差は約47度に達します。冬の低い日差しは上部の庇だけでは遮れず、横から空間の奥深くまで届きます。
この基本特性と、季節に応じたオーニングの運用方法は、前回のコラムで解説しました。本稿では、設計寸法への落とし込みと方位別の考え方に踏み込みます。
夏の日差しを基準に決めた固定の庇では、冬の日差しは実質的に遮れないことがわかります。冬至の日差しを固定の庇だけで遮ろうとすれば、夏至の約8倍の出幅が必要になり、現実的ではありません。一方で、冬の日差しをすべて遮ってしまうと、せっかくの自然光と温もりも失われます。
したがって設計上の解は、固定の屋根ではなく、季節や時間帯に応じて角度や出幅を調整できる日よけを計画し、「グレア(まぶしさ)は防ぎ、光と暖かさは取り込む」状態をつくることです。例えば、窓用オーニング「ボスコ スウェーデン」は、キャンバスの角度を30度という深い位置まで調整でき、キャンバスは任意の位置で固定できるため、冬の低い日差しに合わせた微調整が可能です。
キャンバスの色彩選定は、意匠の領域にとどまりません。色や光の色合いが人の温冷感に影響することは複数の研究で報告されており、これを空間設計に取り入れることで、体感の面から秋冬の快適性を補うことが期待できます。
色合い(Hue)が温冷感(Heat)に影響を与える現象は「HUE-HEAT効果」と呼ばれています。同志社大学・情報通信研究機構(NICT)・木村工機株式会社の共同研究(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)リサーチコンプレックス事業の一環として実施され、2020年に国際科学誌PLOS ONEに掲載)では、物理的な室温が同じでも、照明を暖色系(色温度3000K)から寒色系(5500K)に切り替えると体感温度が変化し、その差は2〜3℃の室温差に相当すると報告されています [1][2]。
ここで留意すべきは、この研究で検証されたのは照明の色温度であり、キャンバスの色そのものではないという点です。ただし、オーニングやパラソルのキャンバスを透過・反射した光は、キャンバスの色味を帯びて空間を照らします。暖色系のキャンバスの下では空間全体が暖色の光環境に近づくため、照明での知見を応用できる余地があると考えられます。一方で、色と温度感の関係には個人差が大きいとする研究もあり [3]、色彩は物理的な暖房の代替ではなく、体感を補完する要素として位置づけるのが設計上は妥当です。
以上を踏まえ、秋冬のテラス空間におけるキャンバスの色彩戦略は、次のように整理できます。
暖色系(テラコッタ・オレンジ・ブラウン・ボルドーなど)
視覚的な温かみを与え、「暖を取れる場所」という心理的な安心感をもたらします。紅葉や木質素材との親和性も高く、秋冬の景観になじみます。
ニュートラル系(アイボリー・ベージュ・グレージュなど)
年間を通じた印象を優先する場合の基調色です。季節感は照明の色温度やファニチャー、植栽で調整します。
寒色系(ブルー・グリーンなど)
清涼感を与えるため、プールサイドやリゾート施設の夏季利用に向きます。秋冬の利用が主目的のテラスでは面積を抑えるのが無難です
設計意図どおりの色彩効果を長期間保つには、素材の発色性と耐光性も検討項目になります。タカノが取り扱うイタリア・PARA社の「テンポテスト」は、アクリルを原料段階で染めるソリューションダイ(原着)製法を採用しており、後染め品に比べて高い発色性と耐光性を持ち、鮮やかな暖色系の色彩を長く維持します [4]。
一方、商業施設や高層建築物では、防炎性能が求められるケースが多くあります。防炎要件がある計画では、防炎製品認定を取得したポリエステル系キャンバス(テイジン「シャガール」「ニューパスティ」など)から暖色系の色番を選定してください。生地ごとの防炎・耐水・遮熱スペックの読み解き方は、下記のコラムで詳しく解説しています。
秋冬は日没が早く、テラス空間の多くの時間帯で人工照明と暖房機器が空間の印象を決めます。暖色系キャンバスの下に暖房機器と照明を統合して計画することで、視覚と体感の両面から温熱環境を整えることができます。
例えば、遠赤外線ヒーター「ヒートストリップ」は、光や音を出さずに太陽光のような自然な暖かさを提供する、壁・天井取付型のパネルヒーターです [5]。自立型オーニング「リパーロ」には、桁に取り付けるLED照明や暖房ヒーターがオプションとして用意されており、ブラウンやテラコッタなどの暖色系キャンバスと組み合わせることで、視覚的な温かみ(HUE-HEAT効果)と遠赤外線による物理的な暖かさを一体で計画できます。
照明は、電球色(色温度2700〜3000K)を基本とし、キャンバスの内側に光を反射させる間接照明とすることで、キャンバスの色味を帯びた柔らかな光が空間全体を包みます。逆に、昼白色以上の高い色温度の照明は暖色キャンバスの効果を打ち消すため、秋冬の運用では避けることを推奨します。
秋冬のテラス空間設計には、低い太陽高度という条件を制御する機能的要件と、季節の光と色彩を活かす意匠的要件の両立が求められます。
冬の太陽高度を数値で捉えた可変的な採光設計、HUE-HEAT効果を踏まえたキャンバスの色彩戦略、そして照明・ヒーターとの統合的な計画。これらを戦略的に組み合わせることで、秋冬ならではの魅力を持つ空間を創出することができます。
タカノ株式会社では、設計者の皆様の構想を具現化するための多様な製品と技術サポートを提供しております。空間設計における日よけ・雨よけのご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考文献
[1] Tsushima Y, Okada S, Kawai Y, Sumita A, Ando H, Miki M. "Effect of illumination on perceived temperature." PLOS ONE 15 (e0236321), 2020.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0236321
[2] 木村工機株式会社. "HUE-HEAT 空調・照明連動制御の実証研究成果が国際科学誌“PLOS ONE”に掲載". https://www.kimukoh.co.jp/topics/17441-2/
[3] Battistel L, Zandona Caller G, Zampini M, Parin R. "Investigating the validity of the hue-heat effect on thermal sensitivity." Scientific Reports, 2024.
https://doi.org/10.1038/s41598-024-71784-7
[4] タカノ株式会社. "キャンバスカラー". https://www.takano-net.co.jp/exterior/product/convas_color/
[5] タカノ株式会社. "冬季屋外用 暖房機器". https://www.takano-net.co.jp/exterior/product/heater/