アニサキス(Anisakis)アレルギーについて

アニサキスアレルギーとは、海に潜む寄生虫であるアニサキス(Anisakis spp.)のタンパク質(アレルゲン)に対して生じるアレルギーのことです 。アニサキスは海洋に生態系をもち、魚介類や大型海棲哺乳類の体内をすみかとする寄生虫で、魚の体内では数センチメートルサイズの幼虫の姿で寄生しています。

アニサキスが寄生している魚介類を食べることで、人間の体内に生きた寄生虫が侵入し、胃や腸などの消化管に突き刺さり生じる消化管アニサキス症が寿司や刺身を愛好する日本では有名ですが、そのほかにアニサキスは人体にアレルギー反応を生じる原因のひとつでもあります。アニサキスの虫体の一部や放出される分泌液にはアレルゲン(アレルギーを誘発するタンパク質)が含まれており、それらが食べ物と一緒に人体内に入ってくると、既にアレルゲンに対する抗体(IgE抗体)を持っている人(感作している人)ではアレルギー症状が誘発されます。皮膚や消化管の “局所的”なアレルギー反応に加え、“全身性”のアレルギー反応であるアナフィラキシー”を引き起こすことがあります。昭和大学病院をはじめ、アレルギーの専門的な病院の調査では成人のアナフィラキシー症例のうち20%程度がアニサキスアレルギーによるものでした1)。

アニサキスアレルギーの症状は、皮膚症状(かゆみや蕁麻疹)、消化器症状(腹痛、嘔吐や下痢)、循環器症状(血圧低下やショック)、神経症状(めまいや意識障害)など多岐に渡ります。いちどきに全身症状が出る場合にはアナフィラキシーを生じ、ときに生命の危険性もあります。通常の食物アレルギーではアレルゲンを含む食料品を食べた後数分から1時間以内に症状が現れることが多ですが、アニサキスアレルギーではアニサキスアレルゲンを含む食料品を摂取してから数時間~1日程度のタイムラグを持って発症します。 アニサキスアレルギーの診断は、上記を考慮した問診と、血液検査、皮膚テストなどで行われます。但し、従来の血液検査は即日では結果が出ないこと、皮膚テストは統一された試薬・手法がないことが問題点でした。診断の遅れや、魚介類による食物アレルギーと誤った診断が下され、アナフィラキシーを繰り返す症例も少なくありません。

アニサキスアレルギーの予防法は、“アニサキスが寄生する可能性のある魚介類を避けること”です。特に、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどは寄生率が高いとされています。また、加工食品や外食でも注意が必要です。十分な加熱処理や冷凍処理によりアニサキス自体は死滅しますが、アニサキスのタンパク質は完全に消滅しないため、アレルギー反応が起きる可能性があります。ちなみに、アニサキスはしょう油や酢、わさびにつけても確実には死なず、アレルゲンも活動性が維持されていることが多いです。

以前から、“生きたアニサキスを食べてしまった場合に引き起こされる食中毒”=消化管アニサキス症による消化器症状にもアレルギーが関与しているのではないかと推測されてきました。消化管アニサキス症は内視鏡で消化管の中のアニサキスを駆除することや薬物治療で症状が回復しますが、同疾患を何度も生じたり、あるいは症状がないままアニサキスが体内に侵入したりすると、気づかぬうちにアニサキスアレルギーに移行しやすい体質に変化してしまうのではないかと懸念されています。この点には関しては十分な検証が為されていない状況です。

参考資料
1) 宇野知輝, 鈴木慎太郎ほか. JJAAM. 2021; 24: 761-772.