1. はじめに
食物アレルギーは小児の疾患というイメージを持たれがちですが、成人でも約15%の人が「特定の食物でアレルギー症状が出る」と回答したという報告があります。大人になってから初めて発症するケースや、小児期から持ち越しているケースがあり、成人においても食物アレルギー診療のニーズは非常に高まっています。
2. アレルギーの基本
私たちの体には、病原体から体を守る「免疫」という働きがあります。アレルギーとは、本来は無害な食べ物や花粉などに対して免疫が過剰に反応し、体に好ましくない症状を引き起こす状態です。

(図1)「アレルギー反応の仕組み」
IgEが関わるI型アレルギー
アレルゲンに対して「IgE抗体」が作られ、再びアレルゲンが入ってきたときにマスト細胞上にあるIgE抗体と結合し、ヒスタミンなどが放出されアレルギー症状が引き起こされます。
(図1)「アレルギー反応の仕組み」
感作と症状出現の違い
体内にIgE抗体が作られた状態を「感作」と呼びます。血液検査でIgE抗体が陽性(感作されている)であっても、必ずしもアレルギー症状が出るとは限りません。 また成人ではIgE抗体が関わらない食物過敏症状を訴える患者さんも多くいます。3. 食物アレルギーの診断
食物アレルギーの診断において大切なのは、まずは詳細な問診です。患者さんは「食後に症状が出たから食物のせいだ」と考えがちですが、実際には他の要因が関わっていることもあります。
果物や野菜、甲殻類は血液検査で「偽陰性(本当はアレルギーなのに陰性と出る)」になることがあるため、皮膚テストが重要です。

(図2)「食物アレルギーの診断
問診で確認すること
食べたもの、食べてから症状が出るまでの時間、再現性、当日の体調、運動や入浴などの負荷の有無、飲酒、薬の服用、既往歴、職業や趣味などを細かく確認します。血液検査だけで診断しない
疑わしい食物に対して個別のIgE抗体を採血検査で調べます(特異的IgE抗体検査)。ただし、血液検査が陽性だからといって、それだけで「食べられない」と判断するのは間違いです。その他の検査
「アレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体検査」(食物のどのタンパク質成分に反応しているかを調べる検査。病態把握などに有用。)、「皮膚プリックテスト」(少量のアレルゲンを皮膚に入れて反応を見る検査)、必要に応じてその食物を病院で食べてみて症状が出現するかどうかを確認する「経口負荷試験」などを組み合わせて診断します。果物や野菜、甲殻類は血液検査で「偽陰性(本当はアレルギーなのに陰性と出る)」になることがあるため、皮膚テストが重要です。

(図2)「食物アレルギーの診断
4. 成人でみられやすい主な3つのタイプ
IgE依存性食物アレルギーは、症状が誘発される状況により分類されています。
多くは口の中の症状に留まりますが、豆乳(大豆)・セロリ・スパイスなどではアナフィラキシーショックなど強い症状をきたすことがあります。

(図3)② 口腔アレルギー症候群(花粉・食物アレルギー症候群

(図3)③ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
① 即時型
食後2時間以内に、蕁麻疹・咳・呼吸困難などの症状が現れる最も典型的なタイプです。様々な臓器に全身性にアレルギー症状がみられ、生命に危機を与えうる反応をアナフィラキシーといいます。② 口腔アレルギー症候群(花粉・食物アレルギー症候群)
原因食物を食べた後に、口の中やのどにかゆみや違和感の症状が出るものです。花粉症の人が、その花粉と似たタンパク質構造を持つ(交差抗原性のある)果物や野菜を食べたときに、口腔内に症状が出る場合があり、これを花粉・食物アレルギー症候群といいます。例えば、カバノキ科花粉症の人がバラ科の果物(リンゴやモモなど)や豆乳で症状が出ることがあります。多くは口の中の症状に留まりますが、豆乳(大豆)・セロリ・スパイスなどではアナフィラキシーショックなど強い症状をきたすことがあります。

(図3)② 口腔アレルギー症候群(花粉・食物アレルギー症候群
③ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
原因となる食物を食べただけでは症状が出ず、食後数時間以内に運動をすることでアナフィラキシーが起こるタイプです。原因食物は小麦や甲殻類が多いですが、最近は果物や野菜も増加しています。運動以外にも、飲酒・解熱鎮痛薬(NSAIDs)の服用・入浴・疲労などが引き金になることがあります。
(図3)③ 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
5. 成人で注意したい原因食物・関連アレルギー
新規発症の原因食物は年齢によって変わります。
18歳以上での新規発症の原因食物は、甲殻類、小麦、果実類、魚類、大豆、木の実類が多いとされています。
・木の実類
近年、クルミやカシューナッツなど木の実類のアレルギーが増加しています。 令和5(2023)年の消費者庁の全国調査では、原因食物でクルミが鶏卵に次いで2番目に多くなっており、カシューナッツは7位です。 クルミとペカンナッツ、カシューナッツとピスタチオの間には交差抗原性があるため注意が必要です。・アニサキスアレルギー
魚自体のアレルギーではなく、魚に寄生するアニサキスに対するアレルギーです。食後数時間経過してから症状が出ることがあり、発症時間に幅があります。熱に強いため加熱した魚でも発症する人がいます。魚を食べて症状が出た場合は、魚アレルギー・アニサキスアレルギー・ヒスタミン中毒の鑑別が重要です。・職業性の食物アレルギー
調理師や食物を扱う業務に従事している人は、扱っている食物を繰り返し吸い込んだり、素手で触れることで食物アレルギーを発症することがあります。調理師や寿司職人の魚や甲殻類アレルギー、パン職人の小麦アレルギーなどの報告があります。・化粧品が原因のアレルギー
化粧品などに含まれる植物由来成分が皮膚や粘膜に繰り返し触れることで食物アレルギーを発症することがあります。赤色化粧品に含まれるコチニール色素、大豆、トウモロコシ、魚や鶏のコラーゲンなどがあります。・経口ダニアナフィラキシー
ダニに感作されている人が、開封後に常温で長期間保存していてダニが繁殖したお好み焼き粉・ホットケーキミックスなどを食べることでアナフィラキシーを起こすことがあります。粉製品の保存方法には十分な注意が必要です。6. アナフィラキシーとは
アナフィラキシーとは、アレルゲンが体に入ることで複数の臓器に全身性のアレルギー症状が急速に引き起こされ、生命に危機を与え得る過敏反応のことです。じんましんやかゆみなどの皮膚症状、呼吸困難や喘鳴などの呼吸器症状、血圧低下や意識消失などの循環器症状、腹痛や下痢などの消化器症状が複数みられます。血圧低下や意識障害を伴う状態をアナフィラキシーショックと呼びます。
7. エピペン®の使用法
エピペン®は、アナフィラキシーがあらわれたときに使用し、医師の治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤(自己投与が可能なアドレナリン製剤)です。過去にアナフィラキシーを起こしたことがある人、原因抗原の特異的IgEが非常に高く高リスクな人、微量の混入でも発症してしまう人、またはすぐに救急車が到着できない環境にいる人、などに処方されます。
エピペンを使用した後は、症状が一時的に良くなっても再び悪化する「二相性反応」が起こることがあります。そのため、症状が改善しても自宅に留まらず、必ず救急車を呼んで医療機関を受診することが重要です。
また最近、アドレナリンの点鼻薬も処方可能となりました(ネフィー○R)。どちらを携帯するかは主治医とご相談ください。
| 打つ場所 | 太ももの付け根と膝の真ん中あたりの、やや外側 |
| 打ち方 | 衣服(ジーンズ程度の厚さ)の上からでも打てますが、ポケットに物が入っていないか確認してください。 「カチッ」と音がするまで強く押し付けて、5秒数えてから抜きます。 |
| 事後対応 | オレンジ色のニードルカバーが伸びていれば注射完了です。使用後は必ず救急要請し、使ったエピペンも病院へ持参してください。 |
エピペンを使用した後は、症状が一時的に良くなっても再び悪化する「二相性反応」が起こることがあります。そのため、症状が改善しても自宅に留まらず、必ず救急車を呼んで医療機関を受診することが重要です。
また最近、アドレナリンの点鼻薬も処方可能となりました(ネフィー○R)。どちらを携帯するかは主治医とご相談ください。
8. 日常生活でのポイント
アレルギー表示の落とし穴
2026年4月1日、食品表示基準が改正され、特定原材料(食物アレルギーの義務表示対象品目)に、新たに「カシューナッツ」が追加され、9品目となりました。(卵、乳、小麦、そば、えび、かに、落花生(ピーナッツ)、くるみ、カシューナッツ)容器包装された加工食品で表示が義務づけられていますが、飲食店で提供される食品や出前、容器包装に入れずに販売する食品(ばら売りや量り売りなど)には、アレルギー表示の義務がありません。また9品目以外には表示義務はありません。
「うどんをそばと同じ釜で茹でていた」「インドカレーにカシューナッツペーストが使われていた」など、混入や見た目ではわからない、思いがけない誤食に注意が必要です。

(図4)「特定原材料(食物アレルギーの表示対象品目)」
自己判断しない
外食や中食では、見た目だけで判断せず、お店の人に確認することが大切です。「表示がないものは必ず確認する」習慣をつけましょう。適切な診断と最小限の除去
血液検査だけで多くの食品を除去すると、食べられるものの幅が不必要に狭くなってしまいます。専門施設で問診・皮膚テスト・負荷試験などで正確な診断を受け、除去は必要最小限に留めることが望ましいです。症状出現時に備えて
医師から処方されている抗ヒスタミン薬などの内服薬やアドレナリン製剤を常に携帯しましょう。9. 災害時の備え
災害時はストレスや疲労で体調を崩しやすく、アレルギー対応食の入手も困難になるなど、食物アレルギーの患者さんにとって過酷な状況になり得ます。日頃からの「自助」の備えが命を守ります。

(図5)災害時の備え
お薬の備え
お薬手帳は紙でも用意しておきましょう。エピペン®や内服薬は使用期限を定期的に確認し、最低でも1週間分の予備を持っておくことが推奨されます。食品の備え
支援物資としてアレルギー対応食がすぐに届かないことを想定し、自分が安心して食べられる食品(レトルトなど)をできれば1〜2週間分備蓄しておきましょう。普段から少し多めに買い置きし、古いものから食べて買い足す「ローリングストック」の活用が効果的です。周囲への伝え方
炊き出しや支援物資を受け取る際は必ず表示を確認し、わからないものは食べないことが鉄則です。「〇〇アレルギーです」と書かれたカードやビブスを用意し、周囲に配慮を求めることも重要です。アレルギー疾患のある方は災害時の「要配慮者」に位置づけられていますので、遠慮せずに自治体や支援団体に相談してください。
(図5)災害時の備え
10. まとめ
大人の食物アレルギーは決して珍しいものではありません。自己判断や血液検査の結果だけで決めつけず、問診・皮膚検査・必要に応じた負荷試験を含めた『正確な診断』を受けることが重要です。正しい診断のもと、「必要最低限の除去」をしましょう。十分な誤食対策とアナフィラキシーが疑われる症状が出た場合には、エピペン®の使用をためらわず、すぐに医療機関を受診してください。日頃からの備えと正しい知識が、いざというときにあなた自身の命を守ります。
※本資料は一般向けの要約であり、個別の診断・治療については主治医にご相談ください。
参考文献
1) 厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業)研究代表者 海老澤元宏,「成人の食物アレルギー診療の確立に資する研究体制構築を目指す研究」令和6年度報告書
2) 厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業),食物経口負荷試験の標準的施行方法の確立と普及を目指す研究,研究代表者 海老澤元宏,厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2023」
3) 一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会:食物アレルギー診療ガイドライン2021,2021
4) 杉崎千鶴子 ほか,消費者庁「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業」 令和5(2023)年即時型食物アレルギー全国モニタリング調査結果報告, アレルギー2025; 74(3): 167-172
5) 一般社団法人日本アレルギー学会 皮膚テストの手引き2025作成委員会:皮膚テストの手引き2025,2025
6) 一般社団法人日本アレルギー学会 Anaphylaxis対策委員会 代表 海老澤元宏:アナフィラキシーガイドライン2022,2022
7) 災害における[三小13.1]アレルギー疾患の対応 令和3年度厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業) 大規模災害時におけるアレルギー疾患患者の問題の把握とその解決に向けた研究 研究班,研究代表者 小林茂俊
1) 厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業)研究代表者 海老澤元宏,「成人の食物アレルギー診療の確立に資する研究体制構築を目指す研究」令和6年度報告書
2) 厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業),食物経口負荷試験の標準的施行方法の確立と普及を目指す研究,研究代表者 海老澤元宏,厚生労働科学研究班による「食物アレルギーの診療の手引き2023」
3) 一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会:食物アレルギー診療ガイドライン2021,2021
4) 杉崎千鶴子 ほか,消費者庁「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業」 令和5(2023)年即時型食物アレルギー全国モニタリング調査結果報告, アレルギー2025; 74(3): 167-172
5) 一般社団法人日本アレルギー学会 皮膚テストの手引き2025作成委員会:皮膚テストの手引き2025,2025
6) 一般社団法人日本アレルギー学会 Anaphylaxis対策委員会 代表 海老澤元宏:アナフィラキシーガイドライン2022,2022
7) 災害における[三小13.1]アレルギー疾患の対応 令和3年度厚生労働科学研究費補助金(免疫・アレルギー疾患政策研究事業) 大規模災害時におけるアレルギー疾患患者の問題の把握とその解決に向けた研究 研究班,研究代表者 小林茂俊